【いまさら翼といわれても】感想・ネタバレ

読書

あらすじ

「ちーちゃんの行きそうなところ、知らない?」夏休み初日、折木奉太郎にかかってきた“古典部”部員・伊原摩耶花からの電話。合唱祭の本番を前に、ソロパートを任されている千反田えるが姿を消したと言う。千反田はいま、どんな思いでどこにいるのか―会場に駆けつけた奉太郎は推理を開始する。千反田の知られざる苦悩が垣間見える表題作ほか、謎解きを通し“古典部”メンバーの新たな一面に出会う全6編。シリーズ第6弾!

【「BOOK」データベースより】

こんにちは!銀のイルカです!
2019年6月に文庫化された本書。
数年ぶりに古典部シリーズを読んだけれども、米澤穂信さんは本当にキャラクターの心の機微を表現するのが上手い作家さんだなと改めて感じる作品でした。
以下、感想(ネタバレあり)です!
6つの短編の中で1番好きなのが

「わたしたちの伝説の一冊」

漫研でのトラブルの渦中にいる摩耶花が、自身の漫画を描いたノートを盗まれ、盗んだ漫研部長の羽仁さんから呼び出された喫茶店で、なぜか河内先輩が待っていたという展開。

河内先輩は、あのギスギスしている漫研で2年以上もの時間を費やしてしまったことに後悔して、本当は自分の才能に仕えなければいけなかったと。

そして、摩耶花にも才能があるのだから漫研に居続けるのではなく、成長のために自分と組んで漫画を描こうと告げるわけですね。

けど、ちっぽけなものだとしても、自分の才能に仕えなきゃいけなかったという先輩の言葉に、友達も仲間も振り捨てて、本当に頼りになるかわからない自分の才能に仕えるのは苦しいし恐い、と。

それに同人誌を作ろうと摩耶花を誘った浅沼さんを今さら無下にするのも気が引けると責任感のある摩耶花は思うわけですけど、その浅沼さんに便利に使われるところだったと先輩から聞いて、少し動きが凍り付く心の機微がいいんですよね。

責任感の強さから1度引き受けた以上、やり遂げないと思う摩耶花をうまく利用しようとする浅沼さん…こういう責任感のある人から搾り取ろうとする人、本当嫌になりますね。

その後、最新刊のラ・シーンに自分の名前が掲載されていなかったのを確認し、その悔しさから、自分の進むべき道を決めた覚悟に惹きつけられましたね。

本当に成し遂げたいことがあるのならば、それに仕える覚悟を持って進んでいく信念を貫かないと、何も成し遂げられないと思わせられました。

「わたしたちの伝説の1冊」の次に好きなのが

「長い休日」

奉太郎が小学生の頃、自分が便利に使われていたと気づいたお話。

お互い様だから手助けしようと思っても、相手もお互い様だと思ってくれるとは限らないし、感謝してほしいわけでもないけど、自分がいいように使われていたという事実がショックで心が疲弊してしまった奉太郎が読んでいて自分まで辛くなってきた。

摩耶花が浅沼さんに便利に使われていたのと似たような体験を、奉太郎は小学生の時に経験して、その事実に気づいてしまったわけなんですね。

自分がただ文句を言わずに頑張っていたとしても、ただ付け込まれて疲弊するまで搾取され続けるなんて現代社会そのものだよほんと。

自分も経験したからわかる。

搾取する側は文句も言わずにやれているからあれもこれもやらせようとするけど、本当はただ便利に使われていたという事実。

これに気付いた時辛いんだよなあ。

何もかも嫌になる。

そこから長い休日に入った奉太郎だけど、ここにきてただ搾取するだけではない千反田が現れて、奉太郎の休日を終わらせてくれたことにホッとしました。

最後に表題の

「いまさら翼といわれても」

ずっと歩んでいくのが当然だと思っていた道がある日突然、それだけではない色んな道を提示されて心が宙に浮いたような戸惑いや困惑、どうすればわからなくて一杯いっぱいになってしまう様子が心に残る。

自分の進んでいく道が急に消えてしまった空虚感を抱えながら、舞台上で自由が綴られた歌詞を歌い上げるのに抵抗を感じてしまい、その場にいるのが辛くなってしまうほどの追い詰められ方がしんどかった。

その語、千反田が会場に向かったのかは明かされませんでした。

けど、個人的には千反田は舞台上で歌ったのではないかな、と。

辛すぎて逃げ出してしまっても、奉太郎が迎えに行ったことに少しは千反田の心が救われているといいですね。

それでは!

コメント

タイトルとURLをコピーしました